(5)失敗恐れ30代でED
2006年 08月 26日
◆リストラ、負け組…ストレスに
「30代で終わりなのか」
関西地方の会社員、ワタルさん(38、仮名)が、ED(男性性機能障害)を疑い始めたのは30歳のころだ。
24歳で結婚、翌年、長男が生まれた。「稼ぐのが男の務め」。そんな思いで残業や休日出勤もいとわず働いた。病弱な妻が何度か入院した時も、妻子の世話より仕事を優先させた。
4年後、妻が長男を連れて出ていった。別居を経て離婚。息子に会えないつらさと自責の念にさいなまれた。
離婚後、好きな女性ができ、肉体関係を持ったが、3回に1回失敗するようになっていた。「緊張して」「疲れのせい」――。言い訳の傍らでEDの文字が頭をかすめた。そのころから仕事量が増した。中間管理職として部下のリストラも命じられた。社内で「コストカッター」と恐れられたが、「明日は我が身」との不安がつきまとった。
やがて全く出来なくなった。「私のせい? ごめん」。女性に謝られると一層惨めになった。「誰のことも幸せにできない。何のために生きているんだ」。そう思うと死にたくなった。
加齢や高血圧、糖尿病などの疾病に伴うEDは以前から多くあった。しかし最近は、肉体に問題のない若年層で増えている。「ほとんどが過度なストレスやプレッシャーによる心因性EDです」と、男性専門外来の「ウエストクリニック」(東京・新宿)副院長、渡辺玄一さんは話す。
会社員のナナさん(31、仮名)の夫(36)もそんな一人だ。責任感の強い勤務医で、深夜の呼び出しや休日出勤もこなしたが、ナナさんには周囲の期待を過剰に背負いすぎているように見えた。交際中はあったセックスが、結婚後はないまま2年が過ぎた。
「なぜ」。涙ながらに聞いたこともあったが、夫は無口になるだけだった。昨年、ナナさんは別居を始めた。
「失敗してもいいから挑戦してほしかった。出来れば、二人で解決策を探りたかった」とナナさんは言う。
「ストレスケア日比谷クリニック」(東京)には、多くのED患者が訪れる。6、7年前は中高年層が中心だったが、今は20、30歳代が8割を占めるという。院長で精神科医の酒井和夫さんは「ベッドの中でうまくいかないことは誰にでもある。そう気楽に受け止められればいいが、次は失敗できない、と自分を追い詰めてしまう」と話す。
成果主義などの広がりで、常に結果を求められる環境に身を置く男性は多い。一歩間違えば、「負け組」の烙印(らくいん)を押され、リストラや配置転換の対象となる――。「失敗は許されない」という意識を植え付けられた男性たちが、寝室でさえその価値観に苦しめられているようにも見える。
4月、ワタルさんは転職した。年収は下がったが、午後6時には退社できる生活を手に入れた。毎朝5時に起き、約10キロ走る。徐々に回復の兆しが見え始め、「3割ぐらいに戻りました」と笑う。
“まじめな男たち”が自らを追い込む姿は、社会が変わらなければ減ることはないのだろうか。
(2006年7月15日 読売新聞)
「30代で終わりなのか」
関西地方の会社員、ワタルさん(38、仮名)が、ED(男性性機能障害)を疑い始めたのは30歳のころだ。
24歳で結婚、翌年、長男が生まれた。「稼ぐのが男の務め」。そんな思いで残業や休日出勤もいとわず働いた。病弱な妻が何度か入院した時も、妻子の世話より仕事を優先させた。
4年後、妻が長男を連れて出ていった。別居を経て離婚。息子に会えないつらさと自責の念にさいなまれた。
離婚後、好きな女性ができ、肉体関係を持ったが、3回に1回失敗するようになっていた。「緊張して」「疲れのせい」――。言い訳の傍らでEDの文字が頭をかすめた。そのころから仕事量が増した。中間管理職として部下のリストラも命じられた。社内で「コストカッター」と恐れられたが、「明日は我が身」との不安がつきまとった。
やがて全く出来なくなった。「私のせい? ごめん」。女性に謝られると一層惨めになった。「誰のことも幸せにできない。何のために生きているんだ」。そう思うと死にたくなった。
加齢や高血圧、糖尿病などの疾病に伴うEDは以前から多くあった。しかし最近は、肉体に問題のない若年層で増えている。「ほとんどが過度なストレスやプレッシャーによる心因性EDです」と、男性専門外来の「ウエストクリニック」(東京・新宿)副院長、渡辺玄一さんは話す。
会社員のナナさん(31、仮名)の夫(36)もそんな一人だ。責任感の強い勤務医で、深夜の呼び出しや休日出勤もこなしたが、ナナさんには周囲の期待を過剰に背負いすぎているように見えた。交際中はあったセックスが、結婚後はないまま2年が過ぎた。
「なぜ」。涙ながらに聞いたこともあったが、夫は無口になるだけだった。昨年、ナナさんは別居を始めた。
「失敗してもいいから挑戦してほしかった。出来れば、二人で解決策を探りたかった」とナナさんは言う。
「ストレスケア日比谷クリニック」(東京)には、多くのED患者が訪れる。6、7年前は中高年層が中心だったが、今は20、30歳代が8割を占めるという。院長で精神科医の酒井和夫さんは「ベッドの中でうまくいかないことは誰にでもある。そう気楽に受け止められればいいが、次は失敗できない、と自分を追い詰めてしまう」と話す。
成果主義などの広がりで、常に結果を求められる環境に身を置く男性は多い。一歩間違えば、「負け組」の烙印(らくいん)を押され、リストラや配置転換の対象となる――。「失敗は許されない」という意識を植え付けられた男性たちが、寝室でさえその価値観に苦しめられているようにも見える。
4月、ワタルさんは転職した。年収は下がったが、午後6時には退社できる生活を手に入れた。毎朝5時に起き、約10キロ走る。徐々に回復の兆しが見え始め、「3割ぐらいに戻りました」と笑う。
“まじめな男たち”が自らを追い込む姿は、社会が変わらなければ減ることはないのだろうか。
(2006年7月15日 読売新聞)
by mikey2010
| 2006-08-26 17:22
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