(2006/01/25発行)【太平洋セメント・クレオ事件】
2006年 03月 16日
C┃O┃N┃T┃E┃N┃T┃S┃
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■ 今週の事件【太平洋セメント・クレオ事件】
▽ <争点>
出向先企業での配置転換命令の効力/損害賠償(不当処遇)
1.事件の概要は?
2.前提事実および事件の経過は?
3.社員Xの言い分は?
4.判決は?
==========================================================================
■ 今週の事件
【太平洋セメント(以下、T社)・クレオ(以下、C社)事件・東京地裁判決】
(平成17年2月25日)
━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1. 事件の概要は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
本件は、T社の管理職であるXが出向先のC社において、単純作業を担当する部署
に配置転換(以下「配転」という)されたのは、Xが退職勧奨や他社への出向に同
意しなかったことに対する嫌がらせであるとして、C社に対し、当該配転命令の無
効確認と当該配転命令にしたがう労働契約上の義務がないことの確認を求めるとと
もに、T社およびC社に対し、慰謝料等の支払いを求めたもの。
━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2. 前提事実および事件の経過は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
<T社、C社およびXについて>
★ T社はセメント製造等を目的とする会社である。
★ C社はT社の100%子会社で、土木建築関連業等を目的とする会社である。
★ Xは電子機器会社の品質管理部門を約15年間経験した後、平成2年、T社の前
身であるA社に入社した。その後のXの主な経歴は以下の通りである。
2年3月 セラミックス事業本部品質保証課サブマネージャー
4年5月 同本部製造部電子部品製造生産技術マネージャー(部下5名)
6年3月 同本部光部品製造課マネージャー(部下15名)
9年7月 H社へ出向
10年8月 K社生コン工場工場長(部下4名)
11年10月 C社テクノサポート事業部ISO担当マネージャー(部下なし)
15年3月 C社教育事業部通信教育担当へ配転(以下「本件配転」という)
--------------------------------------------------------------------------
<Xへの退職勧奨および本件出向について>
▼ 11年5月から6月にかけて、全社的に早期退職制度が実施される中、K社の工
場に勤務していたXはT社から退職勧奨を受けた。
▼ 14年9月、XをG協同組合技術センター長へ出向させること(以下「本件出向」
という)の可否をT社から照会されたC社のB常務はXに対し、本件出向の計画を
説明するとともにXの担当業務の進捗状況を照会するなどした結果、T社に本件出
向は可能であると返答した。
▼ XはB常務に対し、本件出向を断ることができないかと申し出たが、同年10月、
Xは本件出向を内示された。その後、本件出向は白紙撤回となった。
--------------------------------------------------------------------------
<T社およびC社の就業規則等について>
★ T社およびC社の就業規則はいずれも「会社は業務の都合により異動および出向
を命じることがあり、社員は正当な理由がないかぎり異動および出向を拒むことが
できない」と定めている。
★ T社の出向規程には、以下のような定めがある。
第2条 出向とは、T社と関係のある会社、団体などの業務に従事するためにT社
に在籍のまま当該会社、団体などに勤務することをいう。
第4条 出向社員の労働条件は、基本部分(雇用、退職、解雇、賃金、賞与、退職
金、人事考課、昇給および昇格)については、T社に勤務している場合と同様に取
り扱うこととし、その他については原則として出向先の定めによる。
第7条 社員を出向させるときは、T社は本人に対し、原則として発令日に出向通
知書を交付する。出向通知書には、出向先、出向の主要目的、出向期間および労働
条件等を明示する。
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3. 社員Xの言い分は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
1)本件配転命令は権利の濫用として無効だ!
▼ Xの前業務であるISO担当マネージャーは本人の希望にも合致し、業務成績も
良好であったこと、本件配転が命じられた理由が不合理・不自然で、後付けのもの
にすぎないこと、XはかつてT社から劣悪な環境への出向内示を再三受け、さらに
11年には退職勧奨まで受けていることなどに鑑みると、本件配転命令は合理的理由
を備えておらず、権利の濫用として無効である。
▼ C社教育事業部でのXの業務は、封筒の発送、選択式問題の採点等の作業を行う
事務的業務がほとんどで、それらはアルバイト等でもできる極めて単純な肉体労働
であり、到底管理職が行うような内容ではなく、作業量も膨大であった。
▼ 本件出向強制ならびに本件配転命令およびその後の処遇は、9年7月以降、特に
退職勧奨以降の一連の処遇から明らかな通り、Xを精神的に追い詰め、退職に追い
込むためになされたものである。
▼ C社の社長にはT社の人事担当役員であるDが就任しており、C社とT社人事部
の意思決定者は同一人物である。D社長がC社に常勤していないとしても、本件出
向を拒否したXの配転の情報を知らされていないはずはなく、むしろ、D社長は本
件出向強制を巡るトラブルからXを疎んずる動機を十分に有していた。
--------------------------------------------------------------------------
2)本件配転命令によりXは著しい精神的苦痛を受けた!
▼ 本件配転命令により、Xは著しい精神的苦痛を受けている。他の従業員が能力を
生かした知的な一般業務を行っている中で、X(53歳)はベテラン従業員であるに
もかかわらず、アルバイト等が行うような肉体労働を朝から晩まで、他の多くの従
業員の面前でやらされているものであり、これはいじめに他ならない。
▼ T社およびC社はXを退職に追いやるために、殊更にXに苦痛を強いているので
あり、かかる行為は不法行為となる。Xは日々、かかる苦痛を受けているのであり、
その苦痛を慰謝するには300万円を下らない。
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4. 判決は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
▼ Xが求める本件配転命令の無効確認は過去の意思表示の効力を問題とするもの
で、確認の利益を欠くというべきであり、不適法である。
▼ T社およびC社の就業規則の定めにより、出向先であるC社はXに対して配転を
命ずることができる。
▼ 本件配転命令は配置の目的、人選に合理性があり、業務量が過重にならないよう
配置されたものであるから、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる
ものではなく、業務上の必要性がある。
▼ 労働者の不利益が通常甘受すべき程度のものである場合、業務上の必要性は余人
をもって替えがたいという高度のものであることを要せず、企業の合理的運営に寄
与する点があれば足りるから、前職務の業績が良好であったこと、単純作業への配
置をしたことをもって本件配転命令の合理性を否定することはできない。
▼ 本件配転命令や本件出向打診がXに対する退職強要目的でなされたとすること
は困難であり、C社およびT社が不法行為責任を負うということはできない。
1)本件訴えのうち、配置転換命令の無効確認を求める部分を却下する。
2)Xのその余の請求をいずれも棄却する。
3)訴訟費用はXの負担とする。
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■ 今週の事件【太平洋セメント・クレオ事件】
▽ <争点>
出向先企業での配置転換命令の効力/損害賠償(不当処遇)
1.事件の概要は?
2.前提事実および事件の経過は?
3.社員Xの言い分は?
4.判決は?
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■ 今週の事件
【太平洋セメント(以下、T社)・クレオ(以下、C社)事件・東京地裁判決】
(平成17年2月25日)
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1. 事件の概要は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
本件は、T社の管理職であるXが出向先のC社において、単純作業を担当する部署
に配置転換(以下「配転」という)されたのは、Xが退職勧奨や他社への出向に同
意しなかったことに対する嫌がらせであるとして、C社に対し、当該配転命令の無
効確認と当該配転命令にしたがう労働契約上の義務がないことの確認を求めるとと
もに、T社およびC社に対し、慰謝料等の支払いを求めたもの。
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2. 前提事実および事件の経過は?
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<T社、C社およびXについて>
★ T社はセメント製造等を目的とする会社である。
★ C社はT社の100%子会社で、土木建築関連業等を目的とする会社である。
★ Xは電子機器会社の品質管理部門を約15年間経験した後、平成2年、T社の前
身であるA社に入社した。その後のXの主な経歴は以下の通りである。
2年3月 セラミックス事業本部品質保証課サブマネージャー
4年5月 同本部製造部電子部品製造生産技術マネージャー(部下5名)
6年3月 同本部光部品製造課マネージャー(部下15名)
9年7月 H社へ出向
10年8月 K社生コン工場工場長(部下4名)
11年10月 C社テクノサポート事業部ISO担当マネージャー(部下なし)
15年3月 C社教育事業部通信教育担当へ配転(以下「本件配転」という)
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<Xへの退職勧奨および本件出向について>
▼ 11年5月から6月にかけて、全社的に早期退職制度が実施される中、K社の工
場に勤務していたXはT社から退職勧奨を受けた。
▼ 14年9月、XをG協同組合技術センター長へ出向させること(以下「本件出向」
という)の可否をT社から照会されたC社のB常務はXに対し、本件出向の計画を
説明するとともにXの担当業務の進捗状況を照会するなどした結果、T社に本件出
向は可能であると返答した。
▼ XはB常務に対し、本件出向を断ることができないかと申し出たが、同年10月、
Xは本件出向を内示された。その後、本件出向は白紙撤回となった。
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<T社およびC社の就業規則等について>
★ T社およびC社の就業規則はいずれも「会社は業務の都合により異動および出向
を命じることがあり、社員は正当な理由がないかぎり異動および出向を拒むことが
できない」と定めている。
★ T社の出向規程には、以下のような定めがある。
第2条 出向とは、T社と関係のある会社、団体などの業務に従事するためにT社
に在籍のまま当該会社、団体などに勤務することをいう。
第4条 出向社員の労働条件は、基本部分(雇用、退職、解雇、賃金、賞与、退職
金、人事考課、昇給および昇格)については、T社に勤務している場合と同様に取
り扱うこととし、その他については原則として出向先の定めによる。
第7条 社員を出向させるときは、T社は本人に対し、原則として発令日に出向通
知書を交付する。出向通知書には、出向先、出向の主要目的、出向期間および労働
条件等を明示する。
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3. 社員Xの言い分は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
1)本件配転命令は権利の濫用として無効だ!
▼ Xの前業務であるISO担当マネージャーは本人の希望にも合致し、業務成績も
良好であったこと、本件配転が命じられた理由が不合理・不自然で、後付けのもの
にすぎないこと、XはかつてT社から劣悪な環境への出向内示を再三受け、さらに
11年には退職勧奨まで受けていることなどに鑑みると、本件配転命令は合理的理由
を備えておらず、権利の濫用として無効である。
▼ C社教育事業部でのXの業務は、封筒の発送、選択式問題の採点等の作業を行う
事務的業務がほとんどで、それらはアルバイト等でもできる極めて単純な肉体労働
であり、到底管理職が行うような内容ではなく、作業量も膨大であった。
▼ 本件出向強制ならびに本件配転命令およびその後の処遇は、9年7月以降、特に
退職勧奨以降の一連の処遇から明らかな通り、Xを精神的に追い詰め、退職に追い
込むためになされたものである。
▼ C社の社長にはT社の人事担当役員であるDが就任しており、C社とT社人事部
の意思決定者は同一人物である。D社長がC社に常勤していないとしても、本件出
向を拒否したXの配転の情報を知らされていないはずはなく、むしろ、D社長は本
件出向強制を巡るトラブルからXを疎んずる動機を十分に有していた。
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2)本件配転命令によりXは著しい精神的苦痛を受けた!
▼ 本件配転命令により、Xは著しい精神的苦痛を受けている。他の従業員が能力を
生かした知的な一般業務を行っている中で、X(53歳)はベテラン従業員であるに
もかかわらず、アルバイト等が行うような肉体労働を朝から晩まで、他の多くの従
業員の面前でやらされているものであり、これはいじめに他ならない。
▼ T社およびC社はXを退職に追いやるために、殊更にXに苦痛を強いているので
あり、かかる行為は不法行為となる。Xは日々、かかる苦痛を受けているのであり、
その苦痛を慰謝するには300万円を下らない。
━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
4. 判決は?
━━━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥
▼ Xが求める本件配転命令の無効確認は過去の意思表示の効力を問題とするもの
で、確認の利益を欠くというべきであり、不適法である。
▼ T社およびC社の就業規則の定めにより、出向先であるC社はXに対して配転を
命ずることができる。
▼ 本件配転命令は配置の目的、人選に合理性があり、業務量が過重にならないよう
配置されたものであるから、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる
ものではなく、業務上の必要性がある。
▼ 労働者の不利益が通常甘受すべき程度のものである場合、業務上の必要性は余人
をもって替えがたいという高度のものであることを要せず、企業の合理的運営に寄
与する点があれば足りるから、前職務の業績が良好であったこと、単純作業への配
置をしたことをもって本件配転命令の合理性を否定することはできない。
▼ 本件配転命令や本件出向打診がXに対する退職強要目的でなされたとすること
は困難であり、C社およびT社が不法行為責任を負うということはできない。
1)本件訴えのうち、配置転換命令の無効確認を求める部分を却下する。
2)Xのその余の請求をいずれも棄却する。
3)訴訟費用はXの負担とする。
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by mikey2010
| 2006-03-16 09:13
| *_*法律・訴訟・トラブル